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突然の強烈な肩の痛み|症例

 
肩の痛み

 肩の痛みの原因を明確にする

 分かりやすくするために、下記の症例に沿って書いていきます。

 
(来院者)

  • 40代 男性 会社員

 
(主訴)

  • 強烈な右肩の痛みを突然感じた

 
(痛み方)

  • 腕を45度程度挙上させただけでも痛みを感じる
  • 何もしなければ重だるい程度だが、日常生活にも支障がある
  • 近くの整骨院にいき、「四十肩」「五十肩」だろうと言われ、体操などを指導されたが、痛くてできない。
  • 整形外科にも来院し、レントゲンでは異常がないとのことでロキソニンの湿布をもらった

 
 
問診:
どこが痛む?

  • 右の肩および肩甲骨の内側と上腕部

 
痛みの種類は?

  • 安静にしていると重だるく、動かすと激痛

 
どうすると痛む?

  • 動作によって

 
いつから痛む?

  • 一昨日

 
いつ痛む?

  • 時間帯で痛みの変化はあまり感じられない

 
きっかけは?

  • 症状が発生する1週間前に肩こりが始まる

 
既往歴あります?

  • なし

 
痛みの現在の状態

  • 悪化傾向

 
悪化要因

  • 思いつかない

 
改善要因

  • 入浴すると少しラクに感じるかもしれない

 
 
 

 情報を整理して推測します

  • 原因が思いつかず、突然痛みが始まった
  • 安静時は違和感、動作時に痛みの発生
  • 症状発生前に肩こりを感じている
  • 時間帯での変化があまりない
  • 入浴すると少しラクかもしれない
  • 整体師には「四十肩」「五十肩」と言われた

 
 
という事は… 肩周辺の組織に損傷か機能性の異常が考えられます。
 
 
 
肩の症状はまず「構造性損傷」
 
 
 
「機能性異常」かを判断するところから始まります。
 
 
 
難しく書きましたが、
 
 
 
要は肩が「壊れていて痛みがある」のか
 
 
 
「正確に動けていないから痛みがある」のかによって施術方針や症状名が大きく変わります。
 
 
 

◉構造性損傷(壊れている)

  • 肩関節周囲炎(四十肩、五十肩)
  • 腱盤断裂盤断裂
  • 肩関節唇損傷
  • 関節包炎
  • 滑液胞炎
  • 剥離骨折
  • etc…

 
 

◉機能性異常(正確に働けていない)

  • 棘上筋インピンジメント
  • 腱盤筋の過剰収縮
  • 斜角筋症候群
  • etc…

 
 
なぜこの判断が重要かと言いますと、カイロプラクティックだけでなく鍼灸など徒手療法では、機能性の異常を改善することは比較的容易及び早期に行うことが可能です。
 
 
しかし、構造上壊れている物を徒手療法によって直接治せるということはありません。
 
 
また、構造性損傷の場合は体操やストレッチなどの運動療法はNGで、機能性異常の場合はOKであるなどの違いもあります。
 
 
簡単に説明すると、擦り傷や切り傷などの損傷はそこをマッサージやストレッチをしたからといって治るわけではなく、逆に出血が起き症状が悪化する可能性があります。
 
 

構造性損傷に対してカイロプラクティックとして

損傷を引き起こした原因を取り除き、損傷部位が回復しやすい状態にする施術を行います。
 
 
つまり、四十肩自体を治すのではなく、四十肩になってしまった環境や原因を取り除き、四十肩が改善しやすく手助けをするというイメージです。
 
 
そのため、よく巷で「四十肩が一発で治った!」や「五十肩はすぐ直せます!」といったことを目にしますが、これは誤りです。
 
 
構造性損傷は短期での改善はあり得ませんので、それは症状名の判断を間違えているのです。
 
 
当院に肩関節周囲炎(四十肩、五十肩)を疑われ来院される患者様の7割近くは四十肩や五十肩ではありません。
 
 
肩の痛みに対しては正確な問診と検査によって、症状の判断と原因の追求を行うことで、早期の改善が見込まれます。
 
 
 

肩の痛みの原因の特定

構造的損傷と機能性異常の見分けは、検査によってチェックしていきます。
 
 
例えば、筋肉が損傷していた場合、
 
 
能動的に(自分で)動かすと痛みが発生し、
 
 
他動的に(他人に)動かされると痛みが出にくいです。
 
 
しかし、関節が損傷していた場合は、能動的でも他動的でも痛みが発生します。
 
 
このように、検査を組み合わせることで構造性損傷と機能性異常だだけでなく、問題部位の断定も同時に行うことが可能です。
 
 
今回は、挙上時と水平伸展(腕を反対側の肩に触れようとする)と痛みが強くなることから、回旋筋腱盤の問題を疑いました。
 
 
回旋筋腱盤(ローテーターカフ)は肩甲骨と腕を繋ぎ、肩の安定性を保つ役割を持つ4つの筋肉の総称です。4つの筋肉はそれぞれ作用が異なります。
 
 
筋肉の付着場所
【腱盤筋】
①棘上筋
②棘下筋
③肩甲下筋
④小円筋
※ここでは解剖用語を使うと解りにくくなるので絵を見てください
 

棘下筋
 
肩甲下筋

 
 
①棘上筋の作用
・肩関節の外転のメイン、外旋、内旋
 
 
②棘下筋の作用
・肩関節の外旋のメイン、水平外転>外転
 
③肩甲下筋の作用
・肩関節内旋のメイン
 
④小円筋の作用
・肩関節外旋補助
 
 
 
神経支配
①棘上筋
 →肩甲上神経(C5~C6)
②棘下筋
 →肩甲上神経(C5~C6)
③肩甲下筋
 →肩甲上・下神経(C5~C6)
④小円筋
 →腋窩神経(C5~C6)
 
今回問題を起こしている筋肉はいずれも頸椎の5番6番から生じる神経に支配されています。
 
 
そのため、これらの筋肉が問題を起こした背景には頸椎の関与も考えられます。
 
 
カイロプラクティック検査によって肩だけではなく、頸椎の検査も行っていきます。
 
 
このようにカイロプラクティックでは問題を起こしている部位の断定だけにとどまらず、そこを支配している神経や脳にも異常がないかを追求し判断します。
 
 
それにより根本的な原因の改善が行えるのです。
 
 
痛い部位だけ調整するというのは対処療法に過ぎません。
 
 
肩こりや腰痛などを一時的にマッサージなどでごまかしている方や、肩や膝などにヒアルロン酸の注射などを継続的に行っている方は、一度根本的に原因を判断し、適切な部位に施術を行うことで、根本的な解決が見込まれます。
 
 
 

検証

では、原因及び問題部位が構造性損傷か機能性異常かを検証をしましょう。
 
 
検証には神経や筋肉、関節の検査をしていきます。
 
 

可動域検査

  • 自動で肩を上げたり横にしたりする時に痛みが発生
  • 他動的に同じ動作を行うと痛みはあまり出ない
  • 回旋筋腱盤を一時的に緩和した状態で、自動で動いてもらうと痛みが弱く感じた

 
     
 
関節や筋肉の損傷ではない(他動では痛みの発生がないため)
 
筋肉の機能性異常が疑われる
 
 

触診検査

  • 棘上筋および棘下筋の過剰緊張と硬結の発生を確認
  • 頸部側面の筋肉である斜角筋の緊張
  • 腕の筋肉である腕橈骨筋の過剰緊張

 
 
 

筋力検査をしてみる

・回旋筋腱盤の筋力検査を行いました
 
①棘上筋:異常→筋出力低下、疼痛あり
②棘下筋:異常→筋出力低下、疼痛あり
③肩甲下筋:正常
④小円筋:正常
 
 
 

関節のチェック

  • 頸椎5番の右後方変位
  • 頸椎7番の左後方変位
  • 胸椎3番、6番の左後方変位

 
神経支配の検査
・モーリテストを行い陽性反応が見られました。

(モーリーテストは斜角筋を圧迫することで、腕や肩甲骨周囲に痛みやしびれ感を誘発させるテストです)

 

筋肉の状態

棘上筋と棘下筋には筋肉の硬結が存在しました。

(硬結とは筋肉が異常に収縮を起こすことで、しこりのようになり、硬くなることで、血液循環が生じなくなり、強烈な痛みや痺れ感などを生じる状態です)

 
硬結が生じると、日常生活で自然に改善することは非常に起きにくくなります。外部的な刺激によって硬結を取り除く必要があります。
 
 

まとめ

このような検査結果から、今回の肩の痛みは回旋筋腱盤の棘上筋と棘下筋の硬結が問題で呈している症状だと考えられました。
 
また、検査によって構造的損傷ではなく、機能性異常だと判断しましたので、四十肩や五十肩ではありませんでした。
 
 
 
症状が発生する2~3ヶ月前に仕事がかなり忙しい時期があり、PCの連続使用によって、右肩が下がり、頸部や腕に負担をかけていたのが問題の根本的な原因です。
 
 

①頸部から出る神経は回旋筋腱盤を支配しますので、そこの調節が正常にできなくなりました。
 
 
②肩が前方に突出することで腕の筋肉である腕橈骨筋が過剰に緊張しやすくなり、腕橈骨筋が緊張することで、肩の内旋(巻き肩)を生じました。

 
     
 
これら二つを合わせると、回旋筋腱盤の中でも、肩をあげる棘上筋と肩を外旋する棘下筋に常時負荷がかかることになります。
 
 
長期間負荷がかかったことで、異常収縮である硬結が発生し、突然の強烈な肩の痛みにつながりました。
 
 
 

【カイロプラクティック施術の流れ】

まずカイロプラクティックによる施術により、頸椎及び胸椎の調整を行いました。その後、硬結を取り除きました。
 
 
通常の筋肉の緊張を取り除く際はそこまで痛みはありませんが、硬結を取り除く時はそれなりに痛みを伴います。
 
 
3回の施術で硬結が消失し、可動域の異常や動作時の痛みも同時に消失しました。
 
 
関節が安定性も取り戻すのには、調整した位置に2週間の保持が必要になります。これは脳が関節の位置情報を管理しているためです。
 
 
脳は今までの位置に関節を戻そうとすることから、施術後関節がその状態を維持できるのは3日~5日になりますので、安定するまでは、10日間で3回程度の施術が必要になります。
 
 
その間に、筋膜調整も同時に行います。通常筋膜の癒着は筋膜調整2~4回程度で消失します。
 
 
 

 注意事項

 問題を引き起こす原因部位を断定することで、 どんなことが影響し原因が症状につながったのかが判断できます。
 
 
それは施術を進める上だけでなく、患者様が再発を防ぎ、予防をする上でも非常に重要です。
 
 
今回のケースのように、患者様が症状のきっかけを思い出せないことはよくありますが、正確な問診と検査によって導き出すことが可能です。
 
 
きっかけなく始まった症状の多くは、慢性的な傾きなど姿勢の異常が関係していることが多くあります。
 
 
カイロプラクティックの施術だけでなく、正確な問診と検査を行うためには施術者が適切な教育を受け基礎医学を理解していることが非常に重要です。
 
 
施術を受ける側にも事前に確認しなければいけないことです。
 
 
判断をする上で必要な確認すべき2つを挙げておきます。
 

  • 国家資格を持っている(柔道整復師、指圧師・あん摩マッサージ指圧師)
  • 学位がある(応用理学士・カイロプラクティック理学士)